このシリーズでは、文字・書体に関する展示を紹介していきます。 初回は、2025年9月30日〜11月28日に慶應義塾ミュージアム・コモンズで開催されていた『慶應義塾ミュージアム・コモンズ×飯沼観音圓福寺 嵯峨本の誘惑:豪華活字本にみた夢』です(展覧会は現在終了しています)。

嵯峨本は、江戸時代初期に光悦流の筆跡による流麗な連綿体の木活字で印刷され、美しい料紙や装丁を特徴とした活字本で、その名称は刊行場所、京都の嵯峨にちなみます。現在では角倉素庵が主体となって製作されたものと認識されているそうです。
嵯峨本は一つの作品に複数のバーションが存在する場合もあり、この展示ではそれらを比較して見ることができる貴重な機会でした。
『伊勢物語』の同内容のページが数冊並べて展示されているセクションでは版の違いが確認できました。本文の内容は同じでも、文字を入れ替えて別の活字に変更しており、とても手間のかかる作業をしていることが窺えました。
単なるあそび…?と頭を捻りましたが、これらは世の中に1つしかない写本に近づける行為の一つとして挙げられており、読者が気づくか分からないこだわりも、意味の込められたものでした。一枚の版木ではできない、活字によって一部の文字の組み替えが可能になっている点は、私が作っているフォントでは当たり前になっていて思いがけず繋がる部分で、感慨深かったです。


行間や版面の天地左右のアキ、刷りの綺麗さから、リズムに富んだ流麗な連綿の文字を読みやすくする工夫が見えて、作業の精巧さに驚きました。どのようにこの活字が彫られたのか、誰の文字なのか疑問は尽きず、謎の多い嵯峨本に惹きつけられました。
慶應義塾ミュージアム・コモンズでは、これまでも書物や古筆の展示が開催されており、何度か足を運びました。今回紹介した展示は終了してしまいましたが、文字好きの方は今後開催される展示もチェックしてみてはいかがでしょうか。
(RK)
「慶應義塾ミュージアム・コモンズ×飯沼観音圓福寺 嵯峨本の誘惑:豪華活字本にみた夢」
展示場所:慶應義塾ミュージアム・コモンズ
URL: https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20250930/
[1][2][3]撮影:村松桂(株式会社カロワークス)
[2](左)『伊勢物語』〔慶長13年(1608)〕刊、嵯峨本第2種本、2巻存上1冊(右)『伊勢物語』〔元和寛永頃〕刊、2巻2冊、飯沼観音圓福寺蔵
[3]『伊勢物語』慶長13年(1608)刊、嵯峨本第1種本、2巻2冊、相応院旧蔵、飯沼観音圓福寺蔵
参考資料:展覧会カタログ 「慶應義塾ミュージアム・コモンズ×飯沼観音圓福寺 嵯峨本の誘惑:豪華活字本にみた夢」