2026.2/16
視覚調整と書体デザイン01「線の太さと密度」
このシリーズでは、書体をデザインする時に役立つ「視覚調整」について紹介していきます。
以前「書体づくりの舞台裏」シリーズの記事で、書体デザインにまつわる視覚調整についていくつか触れましたが、今回のシリーズではもう少し細かく紹介していきたいと思います。
まずはじめに、「視覚調整」とは「錯視」と呼ばれる人の目の錯覚を考慮して、デザインを微調整していく作業のことです。人の目は騙されやすいので、数値上では同じ大きさのものが違って見えたり、整った形が歪んだ形に見えてしまったりすることがあります。
そういった錯視の法則を知り、それらに合わせた調整をしていくことで、デザイン上の違和感をなくして人の目にきれいに映る形へと整えることができます。
視覚調整には、線の太さや長さ、図形の大きさなど、さまざまな種類の調整がありますが、今回の記事では「線の太さ」についてのポイントを見ていきましょう。
1つ目のポイントは「横線より縦線を太く」です。
数値的に同じ線の太さであっても、その線の向きや形状によって人の目には違った太さに見えます。直線でも曲線でも、縦方向の線は横方向の線よりも細く見える傾向にあるため、同じ線幅に見せたい場合には縦線を少し太めにするとよいでしょう。
斜めの線は、縦線より太く、横線より細く見える傾向にあります。そのため、縦線と横線の太さを調整した後に、それらのちょうど中間くらいの太さになるよう調整するとバランスを取ることができます。

文字デザインでも、縦方向の線を太めにすることで安定した形に見えるようになります。 下の図のように、漢字の「下」やアルファベットの「O」などで縦方向の線の方が数値的に太くデザインされていることがわかります。

2つ目のポイントは「曲線を直線より太く」です。 直線と曲線では曲線の方をやや太くすることで全体のトーンを揃えることができます。欧文の「I」と「O」などを見てみると、この調整がされていることがわかります。

3つ目のポイントは「線の密度によって線幅を変える」です。
1つ目と2つ目のような基礎的な線の太さの調整に加えて、書体デザインでは、画数の異なる文字を一つの書体として同じトーン(濃度)に揃えることが重要です。画数が多く密度の高い文字では1つ1つの画線の太さを抑えることで、全体のトーンを調整しています。
下の図のように、同じにんべんの漢字でも、全体の画数によって太さが調整されています。

4つ目のポイントは「下側を太く」「右側を太く」です。
1つの文字の中で同じ方向の線がいくつも並んでいる場合に、全ての線を同じ太さにしてしまうと文字としてバランスの良い形に見えません。
『書体づくりの舞台裏:視覚調整02「線の太さ」』の記事でも触れたように、人の目には下部より上部、右より左が膨張して見えてしまうため、文字の中で下側と右側にある線が太くなるように調整しています。
下にある「圭」の例では、線の太さに加えて、横画同士の間の広さも調整されています。空間の広さの視覚調整については、また今後の記事で詳しく紹介する予定です。

線の太さひとつをとってみても、文字として、1つの書体として読みやすいデザインを実現するために色々な細かい調整が行われています。
視覚調整には数値的な正解があるわけではなく、デザイナーの目と感覚が頼りの作業ですが、書体デザインだけでなくグラフィックデザインやイラストなど、さまざまなクリエイティブ作業に役立つ知識です。今後の記事でも基礎的なポイントを紹介していきますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
(XYZ)