今回は白井敬尚 著の『組版造形 タイポグラフィ名作精選』を紹介します。

「フレームは3mm方眼、禁断の領域である。」「本文サイズは13.5Qで、字送りは何と14H(!)。」本文からの引用ですが、これを読んで首を傾げる方もいれば頷く方もいるかと思います。そういう自分はというと、理解が浅くフワフワと表層を撫でるような心地で読んでいました。組版と向き合い、手を動かし、再度この本を開く。その繰り返しでだんだんと理解が深まるのでしょう。
難しそうに感じられてしまったでしょうか。しかし、私から言えることがあるとすれば、初学者でもまずは読んでみてほしいということです。論理と感覚の両面から組版を丁寧に紐解いた内容で、隅々まで美しく愛に満ちています。本書で紹介される人物や書籍は組版を学ぶ中で何度も耳にすることになりますし、そのたびにきっとこの本を読み返したくなるはずです。

続いて『組版造形 タイポグラフィ名作精選』に関連して弊社の鈴木から選書へのコメントです。
著者がタイポグラフィの領域で鍛えた目と言葉が、著者自身の手によって一冊の本になった。白井氏の単著を待ちわびた人は少なくないはずだ。『組版造形 タイポグラフィ 名作精選』を手に取った人は、期待にそぐわぬ本であることをまず確認し、座右に置いて繰り返し開く本になることを予感するだろう。
歴史軸の上に並べてはじめて理解できる仕事の価値、妥当な評価がなされないまま埋もれている組版事例(とりわけ和文)、それらの見えない構造を視覚化し、タイポグラフィの意図とタイポグラファの存在意義を見定める。批評の対象になることが稀な日本語組版について語るには、見巧者であるとともに勇気が必要だ。ときおり挟まれる寸評は力強く、奥には敬意を滲ませる。
同じタイミングで『勝見勝著作集』を読んでいたせいか、『組版造形』を読みながら私が感じたのは、デザインの各領域でこのような本が書かれるべきだということだ。デザイン批評の不在を一人で埋めることはもはや不可能だろうし、望ましいかたちとも思われない。デザインの専門性と存在価値を問われている今、各分野のデザイナーそれぞれが考えるべき問題である。
本書の真価が問われるのはこれからだ。それは、本書を手に取った人がこの先どういう本を作り出すかにかかっている。おそらく白井氏の願いは、『組版造形』に刺激を受けた人が良い本を世に送り出し、さらには、次の「組版造形本」を生み出すことではないかと私は想像している。 それが書物の使命であり力であると、白井氏は告げようとしているのではないか。
仕事の現場と教育の現場で、実践と理論を二つながらに大事にしてきた著者のタイポグラフィに対する愛情と敬意、そして技術知が詰まった本書が将来の書物の担い手に届くことを願う。

書籍情報:
『組版造形 タイポグラフィ名作精選』
著者:白井敬尚
発行:グラフィック社
購入情報:
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=54159
(担当T)