2026.4/6
視覚調整と書体デザイン03「空間の広さ」
これまでの2つの記事では、文字を構成する線自体の太さや長さ、つまり文字の「黒い部分」に着目した視覚調整について紹介してきました。
文字デザインでは文、字の黒い部分と同じくらい、フトコロやカウンターと呼ばれる線と線の間の空間、つまり「白い部分」も重要な要素です。
今回の記事では、文字の白い部分の視覚調整のポイントを見ていきましょう。
1つ目のポイントは「下側を広く」です。以前の記事でも人の目には上部のものが下部のものより膨張して見える点について触れました。この錯視は、描く図形の形状だけでなく、空間の大きさについても同じように起こります。そのため、文字を構成する線の周りの空間も、上側よりも下側を広く取ることでバランスの取れた文字の形にすることができます。
文字の内側の空間(フトコロ、もしくはカウンター)について漢字の「日」の例を見てみましょう。「日」の真ん中の横線と、上下の横画との距離を数値的に揃えると、下側の白い空間の方が上側の空間よりも小さく見えてしまいます。真ん中の横線を少しだけ上寄りの位置に置き、下側の空間を大きくすることで、見たときに安定感のあるバランスの取れた文字の形になります。

2つ目のポイントは「右側を広く」です。これは1つ目の上下の錯視と似た法則で、人の目には左側が右側より膨張して見えるので、右側の空間を広く取る調整が必要になってきます。
下の図にある漢字の「中」では、真ん中の長い縦線を左右の数値的な中心より少し左にずらすことで、右側の四角い空間を広くしてバランスを取っています。

少し応用的な調整の例ではアルファベットの「A」が挙げられます。「A」の三角形の上の頂点の位置は、下の2つの頂点を結ぶ線の中心よりも少し左に寄っています。これは、ちょうど真ん中に頂点を置くと、右に傾いて見えてしまうためです。頂点をずらし、黒い部分と白い部分の両方を含めた、文字全体の右側を大きくすることで、人の目に左右対称の形に見えるように調整されているのです。

1つ目と2つ目のポイントを組み合わせた例としては、『書体づくりの舞台裏:視覚調整01「空き部分の広さ」』の記事でも紹介した漢字の「田」があります。
「上より下」「左より右」の空間を大きくすることで、バランスの良い文字の形がつくられています。

文字を描く時にはつい黒い部分だけに目が行きがちですが、余白部分にも意識を向ける必要があります。筆者自身も、書体デザインを学んでいた学生時代に恩師たちから「文字は白と黒でできている。黒い部分だけ見ていてもバランスのよい形は作れない。」と繰り返しアドバイスされたのを覚えています。皆さんも文字のデザインを扱う機会があれば、今回紹介した白い部分の視覚調整をぜひ参考にして作業してみてください。
(XYZ)